東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)243号 判決
原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
1 理由齟齬の違法の主張について
審決理由の全体を通読し、その趣旨を検討すると、審決の「よつて思うに、請求人は、一般に「寶(タカラ)」印と称呼、観念される「寶」の文字を角形に顕著に表わしてなる商標を、商品「味淋、焼酎」について、明治三八年その前身である四方合名会社の時代より永年にわたり使用した結果、該商標は、請求人の製造販売に係る商品に使用するものとして取引者、需要者間に広く認識されているものである。」との記載部分は、その後に続く「……と主張している。」までの部分と一連一体となつて、請求人の主張の要約を記載したものと解するのが相当である(なお、成立に争いのない甲第一号証中、請求人の主張の摘示部分、すなわち、審決一枚目裏下から二行目ないし三枚目表六行目参照。)。そうであれば、審決に原告主張の理由齟齬は認められない。
2 事実誤認の違法の主張について
成立に争いのない甲第八号証、第一〇号証、第一五号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は、大正一四年九月に設立され、酒類、調味料等の製造販売を業務目的として来たものであり、さらにその頃、明治三八年一〇月以来存続する四方合名会社を合併し、その一切の営業を承継し、わが国屈指の酒類及びその副産物の総合メーカーとなり、その製品には、「寶」の文字から成る商標、あるいは、これを要部とする商標を使用して来たところ、少なくとも、本件商標の登録出願当時にはすでに、焼酎、味淋等について取引者、需要者の間に広く一般に知られていた(右四方合名会社を合併した原告会社は、大正一四年当時には、たとえば焼酎について、全国のその製造高の二割強に当る一〇万七〇〇〇石を、右商標を付して販売していた。)ことが認められる。
そうであれば、審決が、原告からの十分な立証がなかつたことのみを理由として、原告の使用に係る前記商標について、取引者、需要者間に広く認識された著名な商標とは認めえないとしたのは、結局、事実誤認の違法があるといわなければならない。
そして、前記二の2の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註その一〕本件における審決理由の要点は左のとおりである。
本件商標の構成、指定商品及び登録出願、設定登録、商標権存続期間更新の登録の各日は、前項記載のとおりである。
よつて思うに、請求人は、一般に「寶(タカラ)」印と称呼、観念される「寶」の文字を角形に顕著に表わしてなる商標を、商品「味淋、焼酎」について、明治三八年その前身である四方合名会社の時代より永年にわたり使用した結果、該商標は、請求人の製造販売に係る商品に使用するものとして取引者、需要者間に広く認識されているものである。
他方、本件商標は、二重円輪郭内に「宝」の文字を表わして成るものであるが、該商標は、文字と輪郭から「マルタカラ」の称呼、観念を生ずるとともに、二重円輪郭はきわめてありふれた輪郭であるから、単に「寶(タカラ)」印の称呼、観念を生ずるものである。
かくして、両商標は、「寶(タカラ)」印の称呼、観念を生ずる類似の商標である。
次に、指定商品についてみるに、本件商標は旧第四五類に属する商品を指定商品とするのに対し、請求人の著名商標は「味淋、焼酎」に使用されるものであつて、酒類と食料品類、調味料は同一の取引業者において取り扱われることが多いから、本件商標をその指定商品に使用するときは、あたかも請求人が製造販売しているかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると主張している。
そこで、請求人の使用に係る前記商標が著名であるか否かについてみるに、請求人は前記の主張のみでその事実については何等の立証もされていないから、その主張のみでは、請求人が商品「味淋、焼酎」に使用する前記商標は、本件商標の登録出願当時すでに取引者、需要者間に広く認識された著名な商標であつたとは認定しえないものである。
そうであれば、本件商標は、その指定商品について使用するも、請求人の取り扱いに係る商品と商品の出所について誤認混同を生ずるおそれはないものといわざるをえない。
したがつて、本件商標は、旧商標法第二条第一項第一一号の規定に該当するものではないから、商標法施行法第一〇条第一項の規定によりなお従前の効力を有する旧商標法第一六条第一項の規定により、その登録を無効とすべきものではない。
〔編註その二〕本件に関する商標は左のとおりである。
<省略>